遺言執行者が行う主な仕事
遺言執行者とは、遺言書に記された内容を確実に実現するための中心的な存在です。相続手続きは専門的な知識を必要とする場面が多く、家族だけで進めようとすると、話し合いがまとまらなかったり、必要な手続きが止まってしまったりすることがあります。遺言執行者が指定されていれば、相続全体の流れが整理され、遺言に沿った正確な作業が進み、家族の負担やトラブルを大幅に軽減できます。
遺言執行者は、相続の進行状況を把握し、関係者との調整を行う“相続の司令塔”としての役割も果たします。そのため、遺言書を作成する段階で遺言執行者を決めておくことは、相続を円滑に進めるうえで非常に重要です。
遺言執行者の役割は多岐にわたり、専門性と丁寧さが求められます。以下では、主な仕事を詳しく解説します。
銀行・不動産の名義変更
遺言内容に従って、不動産の相続登記、銀行口座の名義変更・解約などを行います。これらの手続きには多くの書類が必要で、法務局・金融機関との連携も求められるため、経験のある遺言執行者が中心となるとスムーズです。
財産調査と財産目録の作成
預金・不動産・株式・保険・負債など、相続財産は多岐にわたります。遺言執行者はこれらを漏れなく調査し、財産目録としてまとめます。財産目録は相続人にとって重要な資料となるため、正確な作成が不可欠です。
遺贈(相続人以外への財産贈与)の実行
遺言書に「友人へ財産を贈る」「団体へ寄付する」といった記載がある場合、遺言執行者がその実行を担います。遺贈は相続人の感情に影響しやすいため、丁寧な説明と正確な手続きが必要です。
相続人への説明と手続き報告
手続きの進行状況を相続人へ説明し、誤解や不安を防ぐ役割も担います。相続は時間がかかるため、途中経過を伝えることで安心感が生まれます。
手続き完了までの財産管理
遺言の実行がすべて終わるまで、遺産の維持管理を行うことも役割のひとつです。不動産の管理や保全など、必要に応じて適切に対応します。
遺言執行者を選ぶメリット
遺言執行者を指定することは、遺言内容を実現するための重要な対策でもあります。主なメリットは次のとおりです。
トラブルを防ぎやすい
中立的な遺言執行者が間に入ることで、家族間の感情的な対立が避けやすくなります。
手続きが円滑に進む
法律・税務・金融などの専門知識が必要な場面でも、遺言執行者が主導することでミスが減り、手続きがスムーズに進みます。
遺言内容が正確に実現される
遺言書どおりに財産が扱われるため、遺言者の意思をより正確に反映できます。
家族の負担が大幅に軽くなる
調査・書類作成・金融機関とのやり取りなどの負担が軽減され、家族が安心して手続きを進められます。
遺言執行者になれる人・なれない人
遺言執行者には適格性があり、選ばれるための条件があります。
なれる人
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相続人
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親族
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弁護士・司法書士・行政書士
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信託銀行などの専門機関
なれない人
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未成年者(18歳未満)
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破産手続中の人
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公平性を欠くと判断される立場の人
専門的な手続きが求められる場合は、司法書士や弁護士など専門家を指定することが多くあります。
遺言執行者の仕事の流れ
相続の全体像を理解しやすいよう、主なステップをまとめると次のとおりです。
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遺言内容の確認と相続人への通知
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財産調査と財産目録の作成
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名義変更・口座手続きの実行
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遺贈の実行
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手続きの完了報告
いずれも専門性が求められるため、慎重かつ正確な対応が必要です。
遺言執行者ができないこと
遺言執行者には強い権限がありますが、次のような行為は法律上できません。
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相続税の申告:相続人本人の義務であり、遺言執行者が代行することはできません。
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遺言に書かれていない財産の処理:記載のない財産については相続人全員の話し合いが必要です。
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相続人の生活や意思決定への干渉:遺言執行者は事務的な役割に徹する必要があります。
遺言執行者を選ぶ前に確認しておくポイント
遺言執行者を選ぶ際は、次のポイントを意識すると安心です。
遺言執行者にかかる費用を知る
司法書士・行政書士・弁護士・信託銀行など、依頼先ごとに費用体系は大きく異なります。事前の見積もり確認が重要です。
専門家と事前に面談しておく
遺言内容の理解度、相続人とのコミュニケーション能力、対応の丁寧さなどを確認するため、事前相談が役立ちます。
家族へ指定の意図を伝えておく
遺言執行者を指定した理由を家族へ説明しておくことで、相続開始後の誤解や不信感を避けることができます。
遺言執行者にかかる費用の相場
専門家へ依頼する場合、費用の目安は次のとおりです。
司法書士
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20万〜60万円
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不動産が多い場合や手続きが複雑な場合は追加費用が発生する場合があります。
弁護士
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30万〜100万円以上
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遺産額や紛争リスクに応じて高額になる傾向があります。
行政書士
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15万〜40万円
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書類作成中心で、登記や紛争対応は別途専門家が必要です。
信託銀行
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最低100万円+遺産の1〜3%
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高額ですが、総合サポートが受けられます。
費用は事前の確認・比較が欠かせません。
家庭裁判所で遺言執行者を選任する手続き
遺言書に遺言執行者の指定がない場合は、家庭裁判所に申し立てて選任してもらうことができます。
手続きの流れ
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必要書類の準備:戸籍謄本、相続関係説明図、遺言書の写しなど。
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家庭裁判所へ申立て:相続人や受遺者が申請できます。
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裁判所による調査:候補者の適格性や公平性を審査します。
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遺言執行者の選任:審判書が交付され、正式な権限が付与されます。
実例シナリオ:遺言執行者が活躍したケース
ケース1:兄弟間のトラブル回避
兄が不動産を相続する内容の遺言があり、弟が不信感を抱いていました。司法書士が遺言執行者として丁寧に説明し、財産目録を提示したことで弟の不安が解消し、円滑に相続が完了しました。
ケース2:不動産が複数あり手続きが煩雑だった例
母が複数の不動産を所有しており、それぞれにローンや固定資産税の問題が絡んでいました。相続人だけでは管理や名義変更が困難でしたが、遺言執行者として司法書士が選ばれていたことで、各物件の状況整理・登記手続き・必要書類の収集がスムーズに進み、大きな負担なく相続が完了しました。
ケース3:遺贈の実行で家族の関係が保たれた例
遺言書には「長年の友人に100万円を贈る」という遺贈が記されていました。家族の中には不満を感じる人もいましたが、遺言執行者が中立的な立場から遺言内容を丁寧に説明し、財産目録や資金の流れを明確に示したことで、家族の理解が得られ、遺贈は正確に実行されました。結果として、家族同士の関係も悪化することなく相続を終えることができました。
ケース4:海外にいる相続人がいてもスムーズに進んだ例
相続人の一人が海外在住で、日本の相続手続きに参加するのが難しい状況でした。遺言執行者が必要書類の案内、翻訳、署名方法の手配などを行い、複雑な手続きを代行したことで、相続人は海外からでもスムーズに手続きを終えることができました。
最後に
遺言執行者は、遺言書の内容を実現するための中心的な存在であり、相続全体をスムーズに進めるための重要な役割を持っています。家族の負担を減らし、トラブルを防ぎ、遺言者の意思を確実に形にするためにも、遺言書を作成する際は遺言執行者の指定を積極的に検討することをおすすめします。
相続が複雑になるケースでは、司法書士や弁護士などの専門家に依頼することで、より安心して手続きを進めることができます。今後の相続に備えて、早めの準備と適切な専門家への相談が大切です。

